3333 独占欲 にゃあす様

君が誰かに微笑う。
君が何かに触れる。
その総てに僕は嫉妬する。
君の総てを僕の中に。
閉じ込めてしまえたら。

いいのに。

 月が蒼い。
 湖の淵にルックは腰掛けてそう思った。
 隣の影は今日、皇帝バルバロッサを倒して英雄という名になった彼だった。
 少し離れた城の方からはまだ祝賀会の喧騒が聞こえる。
 元山賊メンバーやタイ・ホーあたりはまだ、酔いに酔っても酒を注ぎ直しているのだろう。
 もう、主役がどこへいったかなんて関係ないようだ。
 現に彼が今ここにいるのに、城の喧騒は明るいそれだった。
 水面に映った月の影は揺れて儚げな形になる。
 すぐに壊れてしまうような。
 この平和もすぐに壊れてしまうような。
 暗示のような、示唆のような。
 ルックは石を投げて月を完全に壊した。

「どうしたんだ?」
「べつに」
 急に前触れもなく立ち上がったルックを訝しく思ったのか、ようやく彼は言葉を吐いた。
 けれどルックはそれだけ言うとまた彼の隣に座り込む。
 風が流れて無言は二人を包む。
 いつもならそれでも別に居心地の悪さは感じないのだが、今日は違った。
 何かを話してないと気がすまない。
 何かをしていないと気がすまない。
 無言だとここに自分が一人でいるよな錯覚を覚えるから。
 戦争が終って、その存在を明らかに放っていた彼は急に儚いものに変えた。
 例えばあの月のように。
 戦う事で彼の中にあった強いものは、戦いが終る事で消えてしまった。
 泣けないこと。笑えないこと。自我を突き進む事。冷たくなる事。自暴自棄になること。
 それらを、彼はしないのではなく出来なかった。
 自分の為ではなく、他人のために。出来なかった。
 けれど今日、彼はその総てから解き放たれた。

 そして。
 彼がここにいる理由からも。

 微かな音を放って、水面は薄く揺れた。
「出て行くんだろ?」
 いきなり核心をついた自分にルックは、は、として口元をおさえた。
 こわごわと、それでも何とかしてそちらを見遣ると案の定。
 曖昧な貌で彼は自分を見ている。
 蒼い月光は彼の綺麗な肌を浮き彫らせて。
「よく・・・解ったな」
「君がここにいる理由はもうないからね」
 自嘲気味に自分の口から放たれた言葉はいやに空々しくて。
 ルックは自分の体が萎縮するのを感じた。
 彼は城を見上げた。
 そこからはまだ騒々しい雑音が聞こえる。
「そうだな」

 肯定はして欲しくなかった。
 嘘でもいいから。ここにいるって言って欲しかった。
 言って欲しかった・・・?
 違う。
 僕の手の届くところに・・・・・・。

 まだ真実を言ってくれるだけ、僕は幸せ?

 ルックはゆるりと手を伸ばして、彼のスカーフを解いた。
 漆黒の髪が照らされる。影は闇に溶け合う。
 ただの星屑の一つだったはずの彼は今日で歴史上の人物となる。
 この地に平和をもたらした不老の英雄。
 この言葉はきっと、彼がどこへ行っても彼を縛り付ける鎖にしかならない。
 それでも彼はここから去って行くのだ。
 ルックは彼の闇色の髪を少しだけ掴んで。
 引っ張るように彼の唇を引き寄せ口付けた、
 そっと。少しだけ触れた、彼の柔らかな熱。

 これだけは。
 この唇だけは。
 僕のもの。
 僕のもの。
 そう思わせて。

 唇を離す瞬間、グ、と彼に腕を引き寄せられ、自分がした以上の口付けをされた。
 深く、深く離れない互いの唇。
 触れ合った舌先に、絡まった唾液。

 僕は彼のもの?僕は彼のもの?
 彼は僕のもの?彼は僕のもの?

 彼はきっと誰のものでもない。

 彼はルックが取り上げたスカーフをまた結び直して。
 立ち上がった。
「それじゃあ」
 ルックは何も言えなかった。
 彼はまた戦う。
 血を流したくなくても、彼はきっと戦う。
 あの武器を持って、あの紋章を宿して、彼はきっと戦う。
 去って行く背中はただの少年に見えた。
 自分と同じ。ただの少年に見えた。

君が誰かに微笑う。
君が何かに触れる。
その総てに僕は嫉妬する。

 だからその唇だけは。
 僕のもの。
 そう思わせて。

 彼の姿はもう闇に溶け込んで、跡形もなくなった。
 城からの雑音は何も知らずに騒がしい。
 明日にはきっと、なくなるだろう一夜の夢。
 ルックは立ち上がり、手近な石を取り上げた。
 そして、水面に揺れる月を壊した。

君の体も心も総て自分のものになったらいいのに。
彼の総てを自分の中に閉じ込められたらいいのに。

 月はまたその形を取り戻して。

 あの唇は。

 ぼくのもの。

 

ルックは風だから。きっと誰のものにもならない。
けれど先程重ねたあの唇は。
僕のもの。僕のもの。
そう。思ってる。

あの唇は。

僕のもの。


チャットで3333を貰って行かれたにゃあすさんのリクは

シリアス坊ルク。なのですが。

これって・・・シリアス・・・??

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