赤い棘

 初めて口付けたのは夕暮れの教室だった。
 二人きり。
 赤く染まってゆく教室と、恐いくらいに伸びてゆく影。
 遠く遠く、グラウンドの声が響く。
 今日が終わってゆく音がする。
 君の陰が深くなって、消えてゆきそうになったから。
 どうしてか、その白い首筋に衝動が抑えられなくなった。
 ほわりと窓から挿す朱が、君の白を染めてゆく。
 それが何故だか儚くて、手を延ばしても消えてしまいそうで。
 そうだ。
 君がヴィジョンに行ってしまった時のように。
 それはなんて儚い。

 初めて口付けたのは夕暮れの教室だった。
 見開いた目を今でも忘れる事が出来ない。
 何故あんな事をしたのか、今でも理解に苦しむ。
 重なった唇から伝わるのは。ただ。苦い。
 棘のようだと思った。
 それは柔らかいのに、毒を含んでいて。
 赤い、棘のようだと思った。

 何故あんな事をしたのか、今でも理解に苦しむ。
 けれどそれが契機でそれは今も進行中だ。
 それから触れるようになったお互いの唇は、むしろしない方がおかしいように思える。
 それくらい。求めて止まない、赤い棘。
 同じ男であるとか。
 まだ小学生だとか。
 そんな事はどうでもいい。
 夕暮れの教室で、同じひみつを共有した。
 暑さで流れる汗に、指先で撫でれば、白い首筋が跳ねたから。
 思わず引き寄せて口付ける。

 求めて止まない、赤い棘。
 その柔らかさは何物にも変え難くて。
 だんだん離れるのが困難になってくる。
 ほんの触れる程度だった最初の口付けは、今は永遠かと思われる程長くなっている。
 衝動は抑えられない。
 彼を求めて止まない。
「美鶴」
 ヴィジョンで呼ぶようになった彼の名前を唇に乗せてみる。
 そういう風に呼べる自分が、嬉しい。
 ひみつを共有する。
 それはなんて甘いのだろうか。

 衝動は抑えられない。
 初めて口付けしたのは夕暮れの教室だった。
 慣れない手で引き寄せた、白い首筋。
 一瞬の、幸せは。
 永遠の幸福になる。
 


…!ワタミツになった!(笑)
いや、あの白い肌は、誰でも欲情するよ、うん。
亘だって我慢できないよ。きっと。

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