ハレルヤ!
同じ楽しさを共有して欲しい。
自分が持っている全てを君にもあげたい。
君がいる事の幸せ。
それを解って欲しくて。


「それでねえ、カッちゃんがさぁ……」
 お昼時。いつもの屋上。
 夏も終わりに近づいているのか、蒼穹は矢鱈と高かった。
 頬を撫でる風にも少し寂しげな涼しさが伴っている。
 幻界から戻ってきて、ミツルはただの美鶴になってしまった。
 何事もなかったかのように休みが終わり、2学期に入り、出来事は記憶の中にだけ生きる産物になってしまっている。
 けれどそんな中で唯一確信的なもの。
 嘘だったのではないかと疑っても、それを払拭してくれる存在。
 それは今、自分の隣で弁当を広げている彼。亘だ。
 何時からか、何故だかは知らないけれど美鶴は亘と共に昼食を摂るようになっていた。
 お互いクラスは別だし、亘には亘の友達がいるのだろうから初めは断ったのだが、この相手は意外に頑固だった。
 絶対に嫌だと言っては意見を曲げず、絶対自分と一緒に食べるのだと譲らなかった。
 それは両クラスにまで波紋を広げ、結局は宮原に煩いからと一蹴された。
 ようは体よく押し付けられたのだ。
 だから今日も美鶴はこの屋上で、亘と肩を並べて昼食を摂っている。

 空の向こうで鳥が高くキィと鳴く。
 この現状はそれでも。
 自分にはとても甘い。
 隣の熱を独り占め出来る状況が。
 自分にはとても甘い。

「もー、美鶴ったら僕の話聞いてる!?」
 空へと奪われた心が、重力を伴って戻される。
 二重になっていた視界が、亘で埋められ焦点があった。
 彼は軽くむくれた顔をしてこちらを見ている。
 それに美鶴は思わず苦笑した。
 一緒にご飯を食べる時、いやそれ以外でも、大抵喋るのは亘の方だ。
 閉じることが出来ないのではないかと危ぶんでしまうくらい。
 起こった出来事から晩御飯の内容、亘の手に掛かれば猫が歩いているだけでも話のネタになるだろう。
「カッちゃんがね……」
「うちのおかーさんが……」
「今度出るゲームが……」
「今日の晩御飯が……」
「昨日見たテレビが……」
 エトセトラエトセトラ。
 尽きる事なくマシンガントークは美鶴の体に降りかかる。
 口を挟む隙も与えられず。いやむしろ、口を挟む事すら思いつけない程に。

「おまえ、何でそんなに喋るんだ?」
 それでもようやく、美鶴は亘の言葉の尻尾を捕まえてそう訊いてみた。
「え。だって美鶴にも共有して欲しいんだもん」
「なんだそれ」
 即答された訳の解らない理由に、美鶴も思わず返答した。
 そうしたら、ず、っと亘が顔を寄せて来たので、二人の距離が近くなった。
 相手の瞳に自分が映る。
 ゆらゆらと。
「僕が楽しかった事とかー、美鶴にも知ってもらいたいなって。僕すごいよ。何でも美鶴に繋がっちゃうんだ」
 意味が解らなくて美鶴は首を傾げる。
 何でも自分に繋がる事とはどういうことか。
「例えばテレビ見てて面白かったら美鶴と一緒に見たいとかさー、ゲームも一緒にしたいとか。一緒に遊びに行きたいとか。嬉しい事は一緒に嬉しいって思いたいしさ」
 何をしててもぜーんぶ、美鶴に繋がってくんだ。すごいよ!そう言って亘は破顔一笑した。
 なんてお気楽なお子様か。
 それは本当に、幸せに生きてきた証なのだろう。
 誰でも幸せになる権利があると思っている証だ。
 ああ、けれどその心はなんて温かいのだろうか。
 自分を確かに救ってくれた心だ。
 死んでゆく心を救ってくれた笑顔だ。
 だから、亘がそうやって自分と繋がろうとしてくれている事がとても嬉しい。
 自分も一緒に幸せになって欲しいと思ってくれている心が嬉しい。
 今まで誰もそんな事を思ってはくれやしなかった。から。
「美鶴が僕のハナシを聞いて嬉しくなったらすっごい嬉しい。神様が大好きになっちゃうくらい」

 ハレルヤ!

 喜びや楽しみは一緒に分かち合えば2倍。
 悲しい時は一緒に泣けば半分。
 もう全部一人で抱えなくてもいい。
 荷物は一緒に持てばいい。
 君がいるから大丈夫。
 道は暗闇じゃない。
 


小学生でしょ!?給食は?という疑問はもっちゃダメです。
一緒にお弁当とか食べてるのが良いのです。
ハレルヤハレルヤ、生きていれば皆幸せ!
人を幸せに出来る能力は素敵なのです。

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