熱気

 それはきっと この熱気のせいだ。

 息苦しさに目が醒めた。
 うなじに、髪がべたりと張り付く。
 一瞬自分がどこに居るのか解らなくて、美鶴は辺りを見回した。
 ぼんやりとした記憶を手繰り寄せてようやく理解する。
 ここは亘の家だ。
 まだ暑さが冷めない9月の学校帰り、自分はこの家に寄って そして二人で眠ってしまったのだ。
 夏の午睡は少しの気だるさを伴って。
 眠ってしまえば暑さもあまり感じない。
 それは、目覚めた時のまとわり付く汗さえなければ、の話だが。

 閉められたカーテンの隙間を縫って、夕暮れの赤い光が線となって進入してくる。
 遠くからはひぐらしの鳴く声が聞こえてくる。
 季節は少しずつその空気に冷たさを混じらせて。
 二人が出会ったあの、夏の日から動いてゆく。
 ふっと、隣を見遣ると、亘はまだ寝息を立てていた。
 薄暗い空間。定期的な音。

 それはきっと この熱気のせいだ。

「ん」
 延ばしかけた指がびくりと止まった。
 だが、その大きな目は今はまだ開かれない。
 軽い髪がぱらぱらと横に流れた。
 止めた腕をまた動かして、美鶴は彼の頬に触れた。
 今まで幾度となく、触れてみたくて触れられなかったもの。
 手を繋ぐのは簡単。
 腕を回すのも、例え自分からは難しくても彼には容易のようで。
 けれど、髪に触れたり、頬に触れたり、そうすることは少し難しかった。
 きっと それは多分。不可侵な領域だからだ。
 何故だか触れていけないような気がするからだ。

 触れた頬は矢鱈と熱くて指先がしびれるように疼いた。
 熱を持つ、吸い付くような感触。
 それは少し浮かんだ汗のせいか。
 赤い光の下、衝動が抑えきれなくて。

 それはきっと この熱気のせいだ。

 美鶴は亘の唇に自分のそれを触れさせた。
 驚くくらいにぴたりと重なる。
 彼の唇は、その頬と同じくらい熱くて 熱くて離れ難かった。
 舌先で表面をなぞると、それは柔らかくて。
 何故だか心が舞い上がった。

 夏の終わり。
 ひぐらしの鳴く声。
 差し込む赤い光。
 首筋を流れる汗。
 重なった唇。

 まとわりつく熱気の。美鶴だけのひみつ。

 吸い付いてしまったそれは、離れるのを矢鱈惜しんだけれど、あまり長くそうしてもいられなくて美鶴は唇を放した。
 途端に恥ずかしさがこみ上げて来る。
 寝こみを襲う、というのはこういうことだろうか。
 隠すようにぐ、と唇を拭った。

 それはきっと この熱気のせいだ。
 衝動が重なる。
 柔らかな棘が、刺さったかのように。
 


小学生のちゅう、っていいなあ(変態)
汗たらしながら昼寝して、起きるのが好き。
あの気だるい感じが好き。ちょっとエロい感じがするし(どこが?)

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