† | ずるい、と思う | † |
ずるい、と思った。 ワタルの手の内から小さな光がばらばらと空へ流れてゆく。 それは矢鱈と綺麗で、涙で滲んだ眼にはまるで、幻想のように思えた。 ミツルだったもの。 ミツルを象っていたもの。 実体は薄く萎み、小さな光の粒子となって空へ舞い上がった。 「行かないで!」 大きく叫んではみたけれど、飛ぶことを覚えたそれはもうこの手に却っては来ない。 ずるい、と思った。 自分のこの心の大部分を攫って消えてしまった彼。 大きな棘を刺したまま、何の救いもくれずに消えてしまった彼。 ずるい、と思った。 最後の最後で、求めていたものを手に入れ、消えてしまった。 彼がこの世界にまで来て求めていたもの。 彼の妹。 それを最後に手に入れて、幸せな貌をして消えてしまった。 自分にだけ前へ進ませて。 自分の中に傷つけたものに気付きもせず。 『友達だから』 本当の事を言えなくて口から出た嘘に、今更後悔する。 そうやって消えてしまうなら。 それが最後だと言うのなら、本当の事を言えば良かった。 君が、好きなのだと そう 言えば良かった。 ずっとずっと追いかけてきた。 願いが叶うという理由は勿論あるにせよ、けれど、この世界に来た理由にミツルが含まれている事も正しい。 月光に照らされた綺麗な貌。 一瞬に惹かれた。 一瞬で惹かれた。 家族を取り戻したい。その願いは勿論あった。 けれども、彼が行く世界に行きたい、それもあった。 好きなのだ。 彼を見るとどきどきする。 彼が笑うと、ほわりと胸が緩む。 頬は知らず熱を持つ。 けれど彼はもういない。 自分の願いを叶えて、幸せになって、消えてしまった。 ずるい、と思う。 そして、最後の最後で彼を連れ去ってしまったその妹も。 ずるい、と思う。 そして、全てを彼のせいにしてしまっている自分も。 ずるい、と思う。 「ミツル」 もう全て空へ消え失せ、ミツルの欠片もなくなってしまった空間にワタルは独り呼んで見る。 勿論、返ってくる言葉などない。 下界で起こっている事とは裏腹に、ここは静かで空は抜けるように青い。 けれどそれも、今は涙で滲んで霞む。 行かなければならない。 願いを叶える為に。 彼がくれた、この黒い玉を無駄にする訳にいかない。 ふと。 ふと、一瞬だけ過ぎった。 彼を生き返らせる事を願ったらどうなるだろう。 けれど、ワタルは首を振って打ち消した。 そんな事をしてしまっては、ミツルの最後の謝罪も無駄になる。 彼が気付いた間違い、も無駄になる。 世界を戻そう。 その為に、ワタルは立ち上がった。 | ||
最終的にワタルの心を引っかいていったミツルは幸せ。 ワタルの心からミツルという存在が消えなくなったから ずるくて狡猾でも、これはミツワタ(笑) |
||
Aug/06 | † | 戻る |