月の檻
予告

「ねえ。ユエ。僕は本当にここにいてもいいの?」
自分を見上げる少年の目に影が生まれた。
まっすぐにこちらを見遣ってはくるのだけれど、どこか遠くを見ているような。
自分を透かしてその奥のものを見つけようとするような。
そんな。目。
自分はこの目がなんとなく嫌いだった。
自分を自分として見てくれていない目だからだ。
彼を拾ったのは戯れだとしても、今の自分に彼が必要な事は目に見えて明らかで。
もし今この少年がいなくなったら自分はどうなってしまうのか。
それは考えなくても明らかだった。
「勿論だよ。ユアン。そんなの気にすることじゃあない」
視線を取り戻したくて。
自分を見て欲しくて。
ユエは強めにそう云う。





「オレは同盟軍のリーダーを赦さない・・・」
ユエの言葉にユアンの肩が震えた。
どうしてそんな反応が起きるのか自分でも解らない。
同盟軍のリーダーなんて見たこともない。
なのにどうして。
なのにどうして、こんなにもドキドキするのだろうか。
心の奥に影がある。
開けてはいけない箱がある。
それを知ってはいるけれど。
開けてはいけないと思えば思うほど。
開けなければ箱の意味がないと思ってしまうのは何故だろう。
それは自分に理由をつけたいから?





ザアと風が鳴った。
大きく草が波の形を作る。
ふいと上を向くと、碧の法衣がはためいているのが見えた。
彼の髪もバラバラと風の乗って揺れる。
「誰?」
疑問が口を滑る。
その言葉に彼の目が一瞬だけ止まったように思えた。
けれどそれは本当に一瞬で、もしかしたら自分の気のせいかもしれない。





閉じ込められた僕。



甘く優しい月の檻に。
閉じ込められた僕。



けれどもしかしたら。



僕が自分から入ったのかもしれなくて。
僕が全てを閉じ込めたのかもしれなくて。





それは優しい檻。
もうずっとその中にいてしまいたいと
そう思ってしまうような。
それは優しい檻。
遥かに甘美な色。
とてもうつくしい音。



でも本当は。
すべて逃避だったのかもしれない。



それは優しい檻。



閉じ込められた僕。



逃げ出せない。



僕。

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